「ただいま!」と少しばかり張り切った元気な声を出して玄関のドアを開けた。
誰もいないと頭の中で分かっていても、部屋のドアを開ける度につい口にしてしまうのだ。
クセはなかなか直らないものだと自分に言い聞かせ、玄関に立った。
「ランプがつかない!」
いつもなら、センサーが人の動きを感知し、玄関のランプが勝手についてしまうが・・・
薄暗い玄関でしばらく立ちつくした。後ろのドアを半開きにしたまま、手を体の前に伸ばし、指先で壁のスウィッチを探った。
「センサーの電池が切れたのかな?感度が悪くなってぇ」
一瞬、さっきの「ただいま」を後悔した。
「おかえり・・・」という返事がしたらどうする?と妄想が働いた。
胸の鼓動が一瞬早まった。
指先がスウィッチを発見。早速、電気をつけ、明るくなった玄関周りをスキャンした。
「大丈夫。誰もいない」と意味なく胸をなでおろした。
玄関で靴を脱ぎ捨てて、弁当箱や空PETボトルが散乱している廊下を通って、洗濯物が部屋の片隅に山積みになっている狭い部屋に辿り着いた。
カバンをベッド先に置き、テレビをつけた。特に見たい番組はないが、なんとなくテレビから流れた音が聞こえると、気持ちが落ち着くのだ。
のどが渇いたので、再びキッチンへ戻った。テレビ横の白い壁につけた電子時計をみて、夜9時だと分かった。いつもより早い帰宅でなんだか得した気分になった。
水分補給をしている最中、ズボンのポケットに収めた携帯電話が鳴った。
メールだ!誰からかな?ポケットに手を突っ込み、携帯を取り出した。
携帯の窓で送信者名をチラッと見て、微笑んだ。
「アノ人からだ。」
好きな人からのメールだと分かり、テンションがすぐに上がった。
携帯を開き、「I miss you」の三文字が・・・
「Now in bed with wife and Lin…thinking of you」